広報「群馬自治」連載 おすすめの一冊 第9回目 平成13年10月号

 21世紀になり最初の秋を迎えましたが、我が国は理想の方向へ進んでいるでしょうか。国民は、年間3万人を超える自殺者や失業率5.0%に象徴されるように失業と低成長に喘いでいます。自己が勝者になれば他者が敗者になり、他者が勝者になれば自己が敗者になる「競争社会」が依然として続いています。そして、大人の社会が未来を担う子供たちに反映され、いじめ、学級崩壊或いは不登校などの大問題も続いています。

 村上龍氏は、日本の近未来を書いた小説『希望の国のエクソダス』で「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」と問題提起しています。


『「希望の島」への改革〜分権型社会をつくる〜

神野直彦著 日本放送出版協会刊

 今回のおすすめの一冊は、神野直彦教授(東京大学大学院経済学研究科)著の『「希望の島」への改革』です。

 経済財政諮問会議の「骨太の方針」では、今後とも国民は痛み(失業と低成長)に耐えなければなりません。そして、構造改革によって、知恵を出し努力した国民だけが報われる社会を作っていくのだということのようです。

 神野先生は、国民がゆとりと豊かさを実感できる社会を実現するためには、人と人が愛と絆で結ばれ、助け合い、いたわりあう「協力社会」へ進路変更するとともに、地方へ権限と税源を移譲し、地域住民の一人ひとりが分権型社会の中でかけがえのない能力を充分に発揮できるように行政がセーフティーネットを張ることが必須であると主張します。その地方分権政策により、スウェーデンが構造改革と景気回復を同時に成功させたように、我が国も二兎をとらえることができると説きます。

 本書は、村上龍氏の問題提起に対する学者としての回答であるとともに、「競争社会」から「協力社会」への進路変更及び地方分権への提言です。「おわりに」まで読み終えたとき、神野先生の気迫と優しさに涙が止まらなくなります。(U)