おすすめの一冊 48

名 文 ど ろ ぼ う
竹内政明著 文春新書

 今回のおすすめの一冊は、『名文どろぼう』(文春新書)です。著者の竹内政明氏は、読売新聞論説委員。同新聞のコラム「編集手帳」の執筆者で、全国町村会の機関紙『町村週報』のコラムの執筆メンバーでもあります。

 本書は昨年末、新聞における年間書評の上位にランクされていたこともあり、書名にも惹かれ購入しました。本書の帯には、「名文を引用して名文を書く技術 −小林秀雄、宮部みゆきから論語、六法全書まで− 『編集手帳』筆者による驚異の文章術」との記載がありますが、読んでみると、明らかに文章術のノウハウ本ではありません。読者の人生経験によってその解釈は多種多様だと思いますが、私は、本書は竹内氏が今までに出会った心に響く名文を紹介することにより、私達日本人が少しでも幸せで心豊かな人生を送れるようにとの竹内氏からのメッセージ本であると解釈しました。特に、現在苦しい情況にある人々が自ら希望の光を求め、前へ歩み出すことができるように書いたものだと思います。

 引用した名文の直後に竹内氏の簡潔でリズミカルな解説文があります。各名文に共通することは、みんな真剣に真摯に生きて、心の奥から滲み出た言葉であるということです。本書により、200人を超える名文作者の人生の一場面を知ることができる同時に、竹内氏の驚異的な読書量の多さ、文章力、ユーモア力、さらにはその人格に接することができます。

 本書を読み終え、最終頁の最終引用文である色川武大の文章とそれに続く竹内氏の解説文こそが、本書の主題であると確信しました。キム・ヨナの「007」のように最後に最大の見せ場が待ち構えていました。今、「明けぬ夜もある」、「神様はいったい何を見ているのだろうか」という厳しい情況の真っただ中にある方又は皆さんが将来そのような情況に陥ったときは是非とも最終引用文をお読みください。私は、竹内氏のセンスと愛情に一本とられました。(U)