おすすめの一冊 45

農村の幸せ、都会の幸せ −家族・食・暮らし−
徳野貞雄著 NHK出版・生活人新書

 「農村社会学者である徳野先生からみた地域再生のあり方は、これまでの発想を根底から覆すほどのインパクトがあります。」今年の7月に開催された平成22年度農山村活性化研修会(全国町村会等主催)の開催通知に記載された講師紹介です。「これまでの発想を根底から覆す」に惹かれ同講演を受講しました。

 今回のお薦めの一冊は、『ムラ農村の幸せ、マチ都会の幸せ −家族・食・暮らし−』徳野貞雄著(NHK出版・生活人新書)です。講演の中で国や地方の保守系議員が日本の家族解体を進めるとして反対している選択的夫婦別姓に関する徳野先生の主張を聞き間違えたと思い、確認のため、本書を購入しました。徳野先生は、「現在の農山村の家族は50年前の子だくさんだった頃とまったく違い、子どもは多くて2人ないし3人しか産みません。すると、子どもは女の子ばかりという家も、ごく当たり前にあります。また、男の子がいる家でも、息子が都会へ出て行って帰ってこないこともあります。娘が家を継がなければならないことが、現状ではたくさんあるのです。農家・農村を残すには夫婦別姓です。」と言い切ります。

 最近の農村において、専業農家の仕事一筋の長男が「農家の長男」という誤解による風評のため結婚しないまま還暦を迎え、老親と暮らしているということも顕著になってきました。田畑、お墓、屋敷及び財産を血の繋がった子孫に残すことは農家の悲願ですが、今、家系が途絶える危機的状況にあります。その解決策の一つが、徳野先生の「農村における選択的夫婦別姓」だと思います。夫婦別姓により、農家の跡取り娘が農家の長男と結婚しやすい環境ができ、子どもが2人以上生まれるならば、両家が存続する可能性が広がります。

 本書には、徳野先生のそのほかの提言、例えば、農家の父親と母親がラブラブで毎日楽しく生活することが娘の結婚の誘因になること、町村の花嫁対策室を年寄りが中心の仲人制から最近嫁いで来た若妻を中心に構成すべきこと、都市農村交流のターゲットは他出している身内から始めるべきこと等の農家、農村、そして日本の農業を存続させるための愛情に満ちた提言が多数述べられています。また、都会のサラリーマン家庭と農村の兼業農家の生活社会指標を比較すると、所得と教育・医療については都会のサラリーマン家庭が優れているが、生活財、家屋の部屋数、自然環境、70歳時点の仕事、家族の世帯員数及び葬式の会葬者数については農村の兼業農家の方が優れており、農村には、日々の暮らしを幸せにする要素がたくさんあるとも述べています。グリーンツーリズムや農山村の六次産業化等のモノとカネだけに着目した地域再生論ではなく、フィールドワーク専門の研究者として農村住民の「家族」「暮らし」「幸せ」に着目し暁鐘を撞く、まさに「野の徳」、徳野先生に惹かれました。(U)