おすすめの一冊 43

逝 き し 世 の 面 影
渡辺京二著 平凡社ライブラリー

 北海道大学の佐藤誠教授は、「一昨年来の世界経済の危機は、景気の問題ではなく、歴史的な経済・産業・暮らしの抜本的な大変革の問題として受け止める必要がある。巨視的に、近代以降の爆発的な産業発展が終わり、雇用や所得の成長が止まる定常社会の到来と認識し、地域でのなりわい興しによる循環型経済の構築が大事だ。これからは、貨幣数量のリッチネス追求から、健康で美しい暮らしのウェルネスを実現することが中心課題となる。」(町村週報第2683号)と述べています。幸福度の基準が大きく変わりつつあるということかもしれません。

 今回のお薦めの一冊は、『逝きし世の面影』渡辺京二著(平凡社ライブラリー)です。著者の渡辺氏は、昭和5年生まれ。熊本市在住の日本近代史家。幕末の開国前後に来日した外国人の日記や滞在記を丹念に詳細に調査し、それらをとても美しい日本語に翻訳し、当時の日本人の心情や生活を鮮やかに表現しています。その気の遠くなるような翻訳の作業量と外国人の記述内容に対する渡辺氏の喜びが行間に滲み出ています。多分、滞在した外国人の記述が我々日本人が誇りに思う、渡辺氏を衝き動かす内容であったものだと思います。

 当時滞在したほとんどすべての外国人の驚きは、日本は「素朴で絵のように美しく、男も女も子どもも、みんな幸せで満足そうに見える。いたるところに子ども達の愉しい笑い声が満ちている。」とのことです。また「子どもへのやさしさ、両親と老人に対する尊重、洗練された趣味と習慣の普及、異邦人に対する丁寧な態度や自分も楽しみ人も楽しませようとする日本人の美徳の数々」が、大きな驚きとともに記録されています。さらに、フランス人画家レガメの陳述によると「日本人のほほえみはすべての礼儀の基本であって、生活のあらゆる場で、それがどんなに耐え難く悲しい状況であっても、ほほえみを忘れなかった」そうです。

 本書を読み終えたとき、幕末から明治初期の日本人の幸福度はとても高かったということ及びこれからの定常社会においては、当時の日本人の価値観や美徳を大切にすべきであるということを確信しました。そして、直ぐに出来ることとして、いつも眉間に皺を寄せて仕事をしている私が言うのも滑稽ですが、幕末期の日本人のように家族や職場をはじめ周りの人へのほほえみを絶やさないよう努力しようと思いました。疲れ気味の現代の日本人と当時の日本人の幸福度を比較するならば、散切り頭を叩いたときにした音は「文明退化」であったかもしれません。(U)