おすすめの一冊 42

禅、シンプル生活のすすめ
枡野俊明著 三笠書房 知的生き方文庫

 今年は寅年。「寅」の本来の読みは「いん」。「引」や「伸」と同系の語で春が来て草木が伸び始める状態を表すそうです。昨年の「丑」は芽が種子の中に生じてまだ伸びることができない状態、来年の「卯」は草木が地面を蔽うようになった状態を表しているとのことですので、今年を「寅」にふさわしく草木が萌え出すような希望に満ち溢れた年にしたいものです。

 今回のお薦めの一冊は、『禅、シンプル生活のすすめ』枡野俊明著(三笠書房、知的生きかた文庫)です。著者の枡野氏は、曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、そして多摩美術大学環境デザイン学科教授です。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得て、2006年にニューズウィーク日本版において「世界が尊敬する日本人100人」に選出されました。「禅」というと難しい思想のようですが、本書では一ページにひとつ、どんな世の中であっても、楽しく伸びやかに、一日一日を大事に生きるシンプル生活への100の具体的方法が洗練された言葉により簡潔に分かり易く説明されています。特に感銘を受けたのは、「脱いだ靴を揃える」「一杯のコーヒーを丁寧に淹れる」「季節の移ろいを感じる」「何かを育ててみる」の段です。仕事面においては、「自分の頭で考える」「人に尽くす」「事実は事実として受けとめる」「人の意見に振り回されない」の段です。

 本書を読み終えたとき、枡野氏の理想とする人物が現れました。茶聖千利休です。利休は「利休七則」で次のように教えています。「茶は服のよきように点て 炭は湯の沸くように置き 冬は暖かに夏は涼しく 花は野の花のように生け 刻限は早めに 降らずとも雨の用意 相客に心せよ」。また、「市中の山居」(あわただしい街なかにいながらも山居の状態をつくる。)により一人の時間を持つことの重要さを説いています。「禅」と「茶の湯」には相通ずるものがあると認識した次第です。
 日常の悩みやストレスで心が重くなったとき、本書に書いてあることを実践するならば、心が軽くなり、体の底からじんわりと力が湧いてくると著者は言っています。いつも本書を携行し、悩みや不安が台頭してきたとき、或いは仕事や生活が不調のときに、本書記載の具体的方法を実践することにより、心が軽くなり、希望を見い出せるのではないかと思います。(U)