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 風 の 記 憶 -自治の原点を求めて-
松本 克夫著 ぎょうせい刊

 全国町村会は、去る5月13日、第29次地方制度調査会専門小委員会に町村史に残る意見書「『小規模町村に対する方策』について」を提出しました。(全国町村会HP掲載)その意見書の冒頭で「現在焦点となっている『小規模市町村における事務執行の確保のための方策』についても、観念的に表面だけなぞったような空疎な議論がなされているとしか思えない。もっと町村の実態を踏まえ、現実の声を聞いて会議運営をしてもらいたい。」と述べています。

 空疎な議論で思い出したのが、松本克夫氏著の『風の記憶』です。全国各地の自治の現場をつぶさに取材したジャーナリストの松本氏は、同書の中で次のように指摘しています。「平成の大合併といわれた市町村合併推進策も限界集落・自治体切り捨て策だった。国が財政的に支え切れなくなった町や村を地方都市に肩代わりさせようというものである。しかし、合併すれば、周辺部がさびれるのは目に見えている。財政が立ち直っても、地域は壊死(えし)していく。合併によって、地域のために命がけになる人がいなくなれば、地域は持ちこたえられない。(中略)その背景には、二代目、三代目の政治家が幅を利かす国政の場の変容もある。選挙区は地方にあっても、生まれも育ちも東京の二、三代目となれば、意識も東京人に近づく。ハズレ型社会(大都市郊外の新興住宅地域)の住人になった政治家、官僚、学者たちがハズレ型社会の意識で政策を立案する。ムラ(農山村)やマチ(下町)が壊れないわけがない。」

 

 

 

※青文字の表記は、原文にはありません。

 田舎暮らしや小規模町村における助け合いや協力し合う「住民自治」を経験したことがないエリートが、小規模自治体における行政需要や住民自治の濃さ(自治能力の高さとも言える。)の検証もなしに事務の義務付け解除を提案する。最も重視すべきことは小規模町村の意見や誇りであるにもかかわらず、地方自治の制度設計の場において「地方他治」拡充のための議論がなされています。小規模自治体の住民にも日本国憲法に対しても失礼ではないでしょうか。

 今、そして将来にわたり、町村及びその住民が取組むべきことの一つに町村部からエリートを輩出することがあります。しかも、そのエリートには勉強ばかりではなく、子供の頃から農作業を手伝わせ、近隣農家との助け合いを経験させるとともに、祭りや運動会等の地域行事には必ず参加させ、住民自治や地域住民の人情を体得させる必要があります。松本氏の『風の記憶』を再読し、その重要性を強く認識した次第です。(U)