おすすめの一冊 39

 人 間 の 覚 悟 
五木 寛之著 新潮新書

 地球温暖化の影響もあって、ひと足早く春を満喫されている人もいるようですが、この季節は農家にとっても農作業本番を迎え活気づくときでもあります。
 このところ経済低迷と先行き不安からかも知れませんが、就農指向の若者が増えつつあるとも聞きます。
 マンションのベランダに茄子、胡瓜、トマト、レタスなどの栽培が若者層に広がっているともいいます。
 ささやかな自給自足の芽が育っているのではないかと思われます。

 今回の「おすすめの一冊」は【「人間の覚悟」五木寛之著.新潮新書.680円+税】です。
 「そろそろ覚悟をきめなければならない。最近、しきりにそんな切迫した思いがつよまってきた」と始まる文章に引き込まれました。

 そういえば私達はここ暫く「覚悟」などという悲愴感漂う選択の必要に迫られることもなく生きてきたように思います。
 とは言っても、十年間も続けて毎年三万人を超える人が自殺という非情な選択をしている現実を見れば平和な時代とはとても言えません。

 独身男女の増加や少子化は、こうした厳しい現実や将来への不安が心の奥深くに蓄積され本能的に対応しているのかも知れません。
 著者は「覚悟」のことを「諦めること」と言い、諦めるとは「明らかに究めること」といいます。全ての事象をあるがままに受け入れた上で覚悟を決めるという、まさに悟りの境地を綴った趣があります。
 一方、読み進む内に穏やかな表現の中にも情念のようなものが感じられますが、それは著者固有の人間性ということではなく本書にも紹介されている「敗戦により満州引き揚げで見た悲惨な光景」という経験が深く関わっているようにも思われます。
 時代を見据える。人生は憂鬱である。下山の哲学を持つ。日本人に洋魂は持てない。他力の風にまかせること。老いとは成熟である。人間の覚悟といった七つの章で構成され人生哲学が平易な文章で綴られます。
 「世の中は地獄へまっしぐらに向かっている。世界経済も限られた一部の人達によって操られ石油から食料に至るまで私たちは生殺与奪権を握られている」と聞かされると否定しつつもどこかで納得せざるを得ないような現実を感じます。
 読み終えて、「覚悟」という言葉自体、今の世の中では前時代的に捉えられてしまいそうですが、いつの時代も誰にも覚悟を決めなければな時があり、また、それにより人は雑念や苦悩から解放されるに違いないとの思いに至りました。さて、皆さんはどう読まれるでしょうか。(N)