おすすめの一冊 36

人生を癒す百歳の禅語
松原泰道著 致知出版社刊

 近ごろの世相は混迷の度を超えて殺伐としてきた様に思われてなりません。世相と人相と相関関係があるのかないのか分かりませんが、道行く人々の表情からも明るさや輝きが感じられなくなりました。
 純真無垢な幼子の笑顔は、周りの人にも安らぎを与えてくれますが、最近の日本人は老いも若きも爽やかな表情をした人がめっきり少なくなったように感じられます。
 人は時間の流れに逆らうことはできませんが、せめて心身ともに健やかに齢を重ねる方法はないものか、思い巡らすこの頃です。

  今回の「おすすめの一冊」は【「人生を癒す百歳の禅語」松原泰道著・致知出版社刊・千六百円+税】です。
 如何に長寿社会とはいえ明治40年生まれの100歳の人が本を出されるとは驚きですが、その年輪から紡ぎ出された珠玉の言葉に感動しました。

 1コマ1時間の講話、7回分を一冊の本に纏めたものですが、読む者の心に響く含蓄ある言葉の数々。心頭滅却、柳緑花紅、眼横鼻直、一期一会など、私たちにも馴染みのある言葉に込められた奥深い意味。
 「禅語」は自然の推移を借りて自分の修行の心情を表すものであり、禅は本来、心を安定させるもの。

 「すべてのものは”お陰“によって存在しており、世にある森羅万象から謙虚に学び思考し希望を持つことこそ重要だが、現代人は傲慢になってしまい、却って苦しみや悩みを抱えることが多い」と指摘します。
 「人間から煩悩はなくならないが、物事に沈潜して心を開くことによってそれをコントロールすることは可能である」とも言います。
 お金さえあれば何でも手に入り自分を中心に世界は回っていると錯覚してしまいそうですが、「法然上人の言う共生(ともいき)こそ自然の摂理であることを理解されなければならないし、思考を深めるためには謙虚に学ぶ姿勢が求められる。そして自分自身のセンサーを磨き感動することによって希望が生まれ、この希望こそが若さの源になる」とのことです。
 「人生不可解なり。といって華厳の滝を飛び降りた人が居ましたが、人生不可解だから学び続けるのであり、学べば学ぶほど分からないことが出て来るから永遠に学び続けるのです」と百歳にして意気軒昂です。
 「壮にして学べば衰えず、老にして学べば死して朽ちず」と言いますが、「行うは難し」が凡人の常。怠惰な日々を重ねる中、この本から新鮮な風を心の奥深く送って戴けたことは何よりの僥倖でありました。
 世に「座右の書」と言うべきものは少なくありませんが、本書は間違いなくその一つに加えられるべきものと思います。(N)