おすすめの一冊 35

国家論−日本社会をどう強化するか−
佐藤優著 日本放送出版協会刊

 かつて流行言葉に「明治は遠くなりにけり」というのがありました。
 日本が戦後復興から高度成長に向け、活気溢れた頃のことです。
明治生まれの頑固で気骨ある日本人の高齢化が進み、押し寄せて来た欧米の価値観や文化の中に、この人達が埋没しつつある時代でした。
 物質文明は止まるところを知らず、人々の欲望を掻き立て続けていますが、心の文化は日に日に痩せ細って行くように思われます。
 まもなく「昭和」も遠くなりそうな気配ですが、経済の豊かさや目先の幸せばかりを追い求め、肝心なものを失わないようにしたいものです。

 今回の「おすすめの一冊」は【「国家論―日本社会をどう強化するかー」佐藤優著・日本放送出版協会刊(NHKブックス)・1,600円+税】です。
 ご存じのとおり、背任、偽計業務妨害罪などで平成17年2月に東京地裁から懲役2年6カ月(執行猶予4年)の有罪判決を受けた著者(現在上告中)が、自らの体験を通じ「国家とは最強の暴力装置である」との視点から、国家を論じたのが本書です。

 「国家の罠」から始まり、短い期間に次々と本を上梓する知力とエネルギーの旺盛さは驚異的でありますが、本書は「国策捜査」や「インテリジェンス」といった鬼気迫る著作とは趣が異なります。
 マルクスの資本論、民族、聖書の視点から国との関わり方を読み解いて行きますが、「1992年にソ連が崩壊し、社会主義体制に対する譲歩の必要がなくなり“規制緩和”“小さな政府”を標榜する新自由主義政策が世界を覆い、競争原理の下に格差社会が進んでいる」と言います。

 「国家の暴力は社会構造、経済システムの隙間から侵入して来るが、現状を見ると国家は過去に比べその暴力性を剥き出しにしており、国家が弱くなればなるほど剥き出しの暴力に依存する傾向が大きい」と分析。
 「強い国家になるには、社会を強化することであり、人間がお互いに尊敬しあい、協力しあうことによって実現される」とのこと。
 そして、「会社の社長になりたい。中央官庁の事務次官になりたい。内閣総理大臣になりたいといったスケールの小さい夢ではなく、貧困のない社会、絶対に戦争のない世界といった究極的な夢をもつ人が増えてこそ社会は強化される。この夢のシナリオを書くのが有識者の仕事であり、実現するのが政治家の仕事である」との結論です。
 確かにここ数年、国が打ち出すさまざまな政策、手法に「暴力的」かどうか分かりませんが、現状分析、将来展望といった点から疑問を感じることが少なくないように思いますが、如何でしょう。(N)