おすすめの一冊 31

われわれはどこへ行くのか?
松井孝典著 ちくまプライマー新書刊

 今までの季節感が混乱してしまうような気候の変調に不安を感じておられる方も多いのではないでしょうか。
 地球温暖化や異常気象が気掛かりでもありますが、今のように情報のない昔であれば「不吉の予兆、自然の怒り」に不安が拡がり世の中が混乱していたかも知れません。
 しかし今日の人間社会は欲望のままに消費活動を拡大しつつ、一方では環境悪化に不安を抱き「地球にやさしく」などといっておりますが、困るのは地球ではなく人間にほかならないのです。

 今回の「おすすめの一冊」は【「われわれはどこへ行くのか?」松井孝典著・ちくまプライマー新書・700円+税】です。
 「地球という星は大気、海、大陸地殻などの物質圏、動植物の生物圏、そして宇宙から夜の地球を見た時に映し出される日本列島や大陸の形の光りの海に象徴される人間圏により構成され、これらが相互に関連して地球システムを作り上げている」と言われます。

 日本では人間圏といっても江戸時代までは生物圏に近く、云わば地球という星によって駆動された物やエネルギーの流れの中で生活が営まれていた(フロー依存型)訳ですが、産業革命以降は地球に蓄えられている資源の消費(ストック依存型)が加速化され、飛躍的に人間に豊かさと欲望を齎したました。このストック依存型人間圏の欲望は地球上の物やエネルギーの流れを猛烈に速めており『今われわれが1年生きるために動かすモノやエネルギーの速度は地球の自然の営みとしてのモノやエネルギーの移動速度の10万年分に相当する』とのことです。

 人間圏を創って生き始めたとき、物質循環をコントロールするようになった時から「地球は人間のものだ」という感覚になってしまいました。
 太陽の光りの強弱に応答する地球システムでは、あと5億年もすれば、生物圏は消滅するとも言われますが、遠い先の話は置くとして、この状態が続くと今世紀半ばにはモノもエネルギーも行き詰まって人間圏は破綻するとのことです。「勝ち組、負け組、格差社会」などが社会問題になっていますが、人間圏の破綻は物質文明の終焉を意味しており、今のシステムは機能不全に陥り人類は振り出しに戻らざるを得ないでしょう。
 本文の随所に出てくる「人とは何か。地球とは何か。文明とは何か。歴史とは何か。」という命題に私達がどこまで迫ることが出来るかが鍵を握ると思われますが、利益追求と消費拡大の経済社会に浸り切った私たち人間の在り方が今問われているのは間違いありません。 (N)