おすすめの一冊 61

絹の国拓く 世界遺産『富岡製糸場と絹産業遺産群』 」
上毛新聞社事業局出版部

 笊(ざる)、竹箒(たけぼうき)、熊手などを作る竹細工の職人であった私の父は、養蚕台(竹で編んだ畳一畳ほどの板状のもの(別掲写真上部の竹製品))も作っていた。この台の上に桑の葉がたくさんついた枝を並べ、そこで養蚕農家は蚕を飼っていた。しかし、竹製品の需要も時代の流れとともに養蚕の衰退と時を合わせるかのように減少していった。
 群馬県の郷土かるたに「上毛かるた」がある。その「に」は『日本で最初の富岡製糸』。今年6月、カタールで開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で、群馬県の「富岡製糸場」と絹産業遺産の「田島弥平旧宅」、「高山社跡」及び「荒船風穴」の四資産が世界文化遺産に登録された。

 今回ご紹介する本は、「絹の国拓く 世界遺産『富岡製糸場と絹産業遺産群』」(上毛新聞社事業局出版部)。この本は、群馬県の地元紙である上毛新聞社が、平成26年1月6日から4月27日まで、全65回連載した記事「絹の国拓く」をまとめたもので、日本が近代国家を目指す中、「富岡製糸場と絹産業遺産群」が果たした役割を検証し、その価値を一人でも多くの人に伝えるための一冊である。
 65回にわたる連載記事をもとに編集したこの本は、記事ごとに関連するカラー刷りの写真が掲載され、記事に登場する人物や用語解説もあり、コンパクトで読みやすい構成になっている。

 富岡製糸場が近代化遺産として注目されるきっかけや世界遺産登録までの経緯をはじめ、富岡製糸場のことだけでなく、それまで春に一度しかできなかった養蚕を夏も秋も可能にした、風穴を利用した蚕種貯蔵、屋根に換気用の櫓(やぐら)を付け風通しを良くした近代養蚕農家建築の発明、原料となる蚕の育て方の研究、貴重な労働力だった工女の育成、最新設備の導入や開発等、試行錯誤を重ねながらたゆまぬ努力を続け、近代日本の発展を支えた人々の様子が描かれている。
 また、富岡製糸場が操業して、10年足らずで廃業の危機が訪れる。熟練工女が育たず、それがそのまま生糸の品質に反映されてしまったのが原因で、この閉場の危機を政府に意見書を送り救ったのが、来年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の主人公の文の夫である、群馬県の名県令として殖産興業・教育に尽力し、群馬の近代化に寄与した初代県令(知事)楫取素彦(かとりもとひこ)であったという。
 富岡製糸場は社会科の教科書に必ず出てくるので、名前を記憶している方は多いと思う。しかし、写真ではなく絵が掲載されていることが多いため、富岡製糸場の建物は、既になくなっていると思っていたのではないだろうか。世界文化遺産登録を機に、メディアでも大きくクローズアップされ、建物が現存していることが認知されて、見学のための来場者が後を絶たない。
 この世界文化遺産を見る前に読むか、見てから読むか。資源のない日本が幕末の開港後に、なぜ急速に発展し得たかを理解することができるのではないだろうか。(M)