おすすめの一冊 59

『 ミツバチの会議 −なぜ最良の意思決定ができるのか−
トーマス・D・シーリ著 築地書館

 衆議院、参議院とも与党が多数を占める国会では、多数決の原理だけが優先され、ややもすると少数派の意見が無視されてしまうということにもなりかねない。
 今回ご紹介する本は、トーマス・D・シーリー 著(片岡夏実 訳)「ミツバチの会議―なぜ常に最良の意思決定ができるのか―」(築地書館(株))です。シーリーはミツバチ研究の第一人者で、この本では、分蜂についてのミステリアスなミツバチの行動が描かれている。分蜂とは、ミツバチが種の存続をかけて群れを増やすための手段で、働きバチの大群が女王バチを連れて新しい巣を作るために巣を出る「巣分かれ」のことをいう。

 巣を離れた一群は、元の巣の近くの木の枝などにとまり、数百匹の家探しバチを派遣して新居を探し、新たな巣が見つかるまで数時間から数日を過ごす。候補地を見つけて分蜂群に戻ったハチは、尻振りダンスでプレゼンする。尻振り走行をし、元の位置に戻りまた尻振り走行をする。これを繰り返す。尻振り走行の時間は、候補地までの距離を表し、戻り走行の時間は短ければ短いほど好ましい候補地で、ダンスも活発に見える。また、尻振りダンスの進む方向により、候補地の方角も示している。それを見た他の探索バチはその場所へ向かい宣伝されている場所を突き止め、独自に判断する。候補地を調査し、満足すれば分蜂群に戻ってその場所を支持するダンスを行う。

 このことを実証するため、シーリーは長い年月をかけて、候補地となるような巣を様々な条件で設置し、実験を重ね、ハチの巣としてより適した第一級の巣を見つけ活発にプレゼンするハチと、第二級の巣を見つけ気の抜けたダンスをするハチを観察し、尻振りダンスによって新しい住処を決定していることを突き止める。
 ここで重要なのは、探索バチが探してきた概ね20から30の候補地の中から、どのようにして合意形成し、最適な一つの候補地を決めるかということだ。もし意見が分かれ、または、選択を誤りその冬を越すための蜂蜜を蓄えるだけの巣が確保できなければ、ミツバチコロニーにとって死活問題だからだ。
 探索バチは、優良な巣の候補地を見つけた場合も、劣った候補地を見つけた場合でもダンスを行う。しかし、両者とも時間がたつにつれて、ダンスはだんだんと弱まり、次の者へ引き継がれて行く。このダンス反応の弱まりが、劣った候補地の情報を徐々に排除していく。このような排除が起きるのは、弱いダンスで劣った候補地を報告する探索バチは、後を引き継ぐハチを招集しにくいため、劣った候補地の弱々しい報告は消えていくからだ。こうしてダンス反応の弱まりは、分蜂群が時間の経過につれて、良好な候補地にますます注意を集中していくことにも貢献する。また、ミツバチ集団の利害が一致していることも一つの候補地にまとまっていく重要な要素である。
 シーリーは、ハチ達から学んだ「効率的な集団の五つの習慣」を教訓として次のようにまとめている。@意思決定集団は、利害が一致し、互いに敬意を抱く個人で構成する、Aリーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする、B多様な解答を探る、C集団の知識を議論を通じてまとめる、D定足数反応を使って一貫性、正確性、スピードを確保する、である。ハチ達の議論は、すべての提案が平等に検討され、周囲に流されることなく独自の判断で候補地を評価し、最終的には高い確率で最も優れた案に合意がまとまる。
 国会議員も国民の生命と財産を守るという同じ使命があるはずではないのだろうかと予算委員会の論戦を見ていて思うのは、私だけだろうか。
(M)