おすすめの一冊 26

霞ヶ関の正体−国を亡ぼす行政の病理−
稲葉清毅著 晶文社刊

 去年、或る講演会で「徳」についての話を伺う機会がありました。
 「人間における生成化育のはたらきのことを徳という」と述べていますが、解り易く言えば「生を助ける、生を促進する、生に活力をもたらすための言葉や行為の一切を徳という」とのことです。
 世間で不都合や不祥事があると「不徳の致すところ」などと言う言葉を聞きますが、これは「関係する人々の生気を萎えさせて落胆させてしまって申し訳ありませんでした」と言うことのようです。
 近ごろ日本は「不徳の致す人」を量産する社会になってしまったように思いますが如何でしょうか。

 今回の「おすすめの一冊」は【「霞ヶ関の正体―国を亡ぼす行政の病理―」稲葉清毅著・鰹サ文社刊・@1,900円+税】です。「日本の官僚は世界で最も優秀な集団と言われたのは昔の話」。信頼を裏切られ続けてきた多くの国民はそう思っていることでしょう。

 何故これほどまでに日本の官僚は堕落してしまったのでしょうか。行政管理庁のキャリアとして霞ヶ関の光りと闇を見てきた著者が群馬大学教授を経て今、細大漏らさず霞ヶ関の病根にメスを入れ腑分けして見せた画期的な書でありますが、決して暴露本ではありません。
 先ず、クニ・ムラ体制を病根とする「構造的奇形」、偏差値優等生の落とし穴・特権意識コンプレックスなど「知的発育不全」、責任感欠乏・腐敗体質・隠匿癖・臆病風などの「生活習慣病」、法令、慣習、モラルの矛盾・完全主義・予算過食・安心ヒステリーなどの「社会からの感染症」等の病名を付け診断を行い対策と処方箋を示していますが、おそらく著者は国家の危機を痛切に感じ、本書を著したものと思われます。
 「行政の病を重篤にしている原因は中央集権という国のかたちである。公務員のモラルや監査・監視システムの整備で防ぐことは不可能であり、この病根を断ち切る治療策は地方分権という構造改革を進める以外に方法がない」と云います。

 官僚機構の弊害の態様にいろんな病名を付け診断している当の本人も曾ての偏差値エリートであったと自らを分析した上で、病根を剔刔してみせた勇気と公益に対する真摯な姿勢に頭が下がります。誰からみても秀才であり国民のリーダーであるべき高級官僚が一敗地に塗れた姿を私たちは幾度となく目にして来ました。
 その最大の要因は選良としての矜持と責任と覚悟といった不可欠の条件を悉く捨ててきたことによるものと思われてなりません。(N)