おすすめの一冊 56

『 黙 示 』
真山 仁著 新潮社

 日本がTPP(環太平洋経済連携協定)の参加国から交渉参加を認められ、七月の会合から参加することになった。TPPによって、安い農産物が輸入されるようになれば、日本の農業は壊滅的な打撃を受けることは必至だろう。
 消費者側から見れば、農産品の価格が下がるというメリットもあるが、これは、外国の農産品が安全であり、かつ、安定的に供給されることが前提とならなければ、メリットとは言えなくなる。
 TPP参加に向けて日本は、食の安全として遺伝子組み換え表示義務の維持や農薬あるいは添加物の国内安全基準の維持を訴えるとしているが…。

 今回ご紹介する本は、真山仁著「黙示」(新潮社)です。NHKでドラマ化された「ハゲタカ」の原作者と言えばご存知の方も多いと思います。
 この物語では、農薬散布用のラジコンヘリの事故を発端に、遺伝子組み換え作物に力を注ぐ外国企業へ急接近する農薬会社と政治家のそれぞれの思惑が渦巻く。
 一方、農林水産省では、TPP批准後を見据えた、強い農業の確立を目指した「食料戦略室」が設けられた。そこでは、小規模農家を切り捨て、主業農家(※)へ徹底投資す
ることで「農家を守る」から「農業を守る」という大胆な方針転換をしようと動き出す。
 世界食糧会議に出席した日本の農相は、大干ばつに見舞われた農業大国のアメリカが、各国に食糧の緊急支援を求める様子にショックを受ける。アメリカが支援を期待していたブラジルやアルゼンチンでも干ばつ被害が出ており、通常通りの輸出量を確保できるかも未知数だと回答される。
 そんな中、会議に出席していた中国農務次官が、日本の農相に予定にない会食を打診してきた。会談の中で中国農務次官が発した言葉は「貴国の減反政策によってコメの生産量は、ピーク時から400万トン以上減りました。ならば、その減らした分を全て私たちが買い上げたいと考えています。貴国が減反されている全ての田を、私たちの国への輸出米をつくるために使わせてもらえないか。」というものだった。

 外国資本が水資源を求めて日本の森林地帯を買い占めている現実を見ると、この話もあながちフィクションとは思えなくなる。世界的な食糧危機が起きた場合、農産物を生産している国では、まず自国民の腹を満たすことを優先するだろう。
 日本の食料自給率が低いことは、ご承知のとおりであり、現実に地球規模で起きている異常気象は、世界の大穀倉地帯を直撃するかも知れない。そんな時、日本はどうすればいいのか、また、今何をすべきなのか、改めて考えさせられる作品だった。
 文中にある農林水産省職員の予言とも言える「いずれ世界中が水と食糧を奪い合うようになる」という言葉が印象的だった。
(M)
※「主業農家」とは、農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所 得)で、一年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家をいう。