おすすめの一冊 53

『 鍵のない夢を見る
辻村深月著 文藝春秋

 「努力したからといって必ず報われるわけではない。でも、努力しないと報われない」。まさかのミドル級で金メダルを獲得した村田選手の亡き恩師武元前川さんの言葉です。「金メダルを取ったことがゴールではなく、これから、金メダルを傷つけない、金メダルに負けない人生を送ることが僕の役目だと思うので、日々精進したい。」村田選手のコメントに恩師も喜んでいると思います。今回のロンドン五輪のテレビ中継では多くの夢の実現を目の当たりにしました。それと同時に「努力しなければ、夢は実現できない」という重いルールを改めて認識させられました。
 今回のおすすめの一冊は、直木賞受賞という途方もなく大きな夢を実現した辻村深月さんの受賞作品『鍵のない夢を見る』(文藝春秋刊)です。辻村さんは、山梨県笛吹市(旧石和町)出身。千葉大学教育学部卒業後の平成14年4月に山梨県町村会事務局に就職し、会計事務や研修事業を担当し、作家活動に専念するため平成20年8月に退職しました。私は、平成18年度から平成20年度までの3年間、埼玉県町村会、神奈川県町村会、山梨県町村会及び群馬県町村会の4県により全国町村会館を会場として共同開催した「関東町村会トップセミナー」及び「関東町村会トップマネジメントセミナー」の事務局スタッフとして辻村さんと一緒に仕事をさせていただきました。メール文の美しい簡潔さはもとより、4県の事務局で分担した役割をそつなく笑顔でこなす辻村さんに感心したことを覚えています。一緒に仕事をした日は3年間の合計で12日間でしたが、直木賞作家と同じ時間を共有し、一緒に働いたことを誇りに感じています。

 『鍵のない夢を見る』は、「仁志野町の泥棒」「石蕗南地区の放火」「美弥谷団地の逃亡者」「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」の5つの短編からなります。甲府や高崎のような地方都市に暮らし、ささやかな幸せを求める女性の揺れ動く心情が、辻村さんの経験をもとに感性豊かな観察力と想像力、そして卓越した文章力で表現されています。このうち、「石蕗南地区の放火」については、山梨県町村会事務局が舞台となっています。財団法人全国自治協会の公有建物共済事業の事務処理をめぐり、結婚もあり得る町村会職員と町村職員の関係がモチーフになっています。「芹葉大学の夢と殺人」については、夢に向かって努力する千葉大在学時の辻村さん強い意志が見えてきます。5つのどの作品も主人公の細やかな心理描写の表現が素晴らしく、辻村ワールドに引き込まれます。

 小学生時代からの図書館通い、その当時から小説を書いていたこと、町村会就職後も勤務後自宅でコツコツと書いていたこと、そして膨大な読書量等の努力の蓄積が、直木賞受賞という夢の扉を開く鍵になったと確信いたします。(U)