おすすめの一冊 52

『 快楽としての読書 』日本篇
丸谷才一著 ちくま文庫

 去る5月21日の出勤前に金環日食を自宅の庭で家族揃って観望した際、妙な明るい暗さと寒さを体感しました。平安時代の日本人はどのように感じたのかを知りたくて、全国町村会への出張の帰りに新宿の8階建ての大きな書店本店に寄りました。目的とする本にはたどり着けませんでしたが、思いがけず「読めば本屋さんまで走りたくなる」というコピーの文庫本に出合えました。
 今回のおすすめの一冊は、『快楽としての読書』日本篇 丸谷才一著(ちくま文庫)です。丸谷氏は、大正14年山形県鶴岡市生まれ。『たった一人の反乱』や『輝く日の宮』を著した作家であり、文芸評論家でもあり、昨年秋に文化勲章を受章しています。
 『快楽としての読書』の帯には、「小説、エッセーから詩歌、批評、辞書や絵本まで、読めば本屋さんまで走りたくなる花やかな読書案内」とあります。第T章(本全体の1割分)が書評のある人生として、書評と「週刊朝日」、扇谷正造と齋藤明がつくったもの、書評の条件という3つのエッセーにより、英国の書評ジャーナリズムを手本として徐々に発展していった我が国の書評文化の歴史が詳細に語られています。第U章(本全体の8割分)が書評122選として、122冊の読むに価する、読まなかったら一生損をするような本の魅力を分かり易いすっすっきりとした文章で紹介しています。

 122本の書評のそれぞれには丸谷氏の芸術的な書評題が付いています。例えば、池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』の書評題には「鬼平がぶらりとはいる料理屋の主人たち」、佐野洋子『100万回生きたねこ』には「恋をした猫は1回だけ死んだ」、松本清張『両像・森鷗外』には「謎とき手法による伝記」、村上春樹『スプートニクの恋人』には「喪失の研究」です。

 この本を読み、書評が芸術の一分野であること及びイギリスで書評が発展した理由が分かりました。鉄道がはじまったイギリスでは、鉄道旅行には暇つぶしの読書が不可欠で、本が売れ、その結果として書評が盛んになったそうです。丸谷氏推奨の文庫本を持ち、各駅停車の旅に出たくなりました。(U)