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『 日 本 人 の 誇 り
藤原正彦著 文春新書

 「雷とから風 義理人情」。群馬県人ならば、誰もが知っている上毛かるたの「ら」の読み札です。上毛かるたは、敗戦後、GHQの指令により学校教育での地理や歴史の授業が停止されていた中で、郷土群馬をこよなく愛し、誇りにしていた旧制前橋中学出身の浦野匡彦先生(元二松学舎大学学長)の、群馬の子供たちに愛すべき故郷の歴史・文化を伝えたいという熱意により生まれたものです。

 かるたの原案では、勤皇の志士・高山彦九郎、義侠・国定忠治、悲劇の幕臣・小栗忠順などがありましたが、日本の弱体化を目指すGHQにより、その思想、家や公への献身・忠誠心が問題とされ、不採用になったそうです。郷土史家や文化人十八名からなる編纂委員会は、そのことに静かに強く反発し「義理人情」には関係のない「雷とから風」という枕詞を付け、GHQへの隠れた抵抗の象徴として「雷とから風 義理人情」としました。さらに、当時は「ら」の読み札と絵を一番上にした状態で販売したとも聞いております。「義理人情」こそ、群馬県人が育んできた最も重視すべき価値観です。

 昨年の東日本大震災において、本県の町村は、被災地の幼児やお年寄りや持病のある方にとって非常に厳しい環境の体育館等の避難所ではなく、全国に先駆け旅館や民宿等の宿泊施設に受け入れ、被災者受入れの範を示しました。また、今年に入ってからは、被災地のがれきの受入れに向け検討に入った町村や被災地の自治体へ職員を長期派遣する町村もあります。本県町村の「義理人情」に誇りを感じているときに、藤原正彦先生の『日本人の誇り』(文春新書)に出合いました。

 その9割を明治以降の米英ソ中の思惑を分析し、その中で日本は何を考え、どう行動したかという近現代史の説明に割いています。藤原先生はその理由を「歴史についての叙述が多くなったのは、明治、大正、昭和戦前を否定する東京裁判を、その形式と内容の両面から拒絶するためでした。」と述べ、「歴史を失った民が自国への誇りと自信を抱くことはありえません。この誇りと自信こそが、現在日本の直面する諸困難を解決する唯一の鍵なのです。」と説きます。また、「日本人にとって、金とか地位とか名声より、家や近隣や仲間などとのつながりこそが、精神の安定をもたらすものであり幸福の源だった。」と分析します。本書を読み、東京裁判や原爆投下等の近現代史の解釈が大きく変わるとともに、GHQの監視下で「義理人情」という価値観を後世の群馬の子供たちに教えようとした上毛かるた編纂委員会の美技に気付きました。(U)