おすすめの一冊 23

結いの心−子孫に遺す町づくりへの挑戦−
郷田 實・郷田美紀子著 評言社刊

 昨年暮れの仕事納めで群馬県の小寺知事は古いハーモニカで「故郷」を演奏されたそうです。都市化の進む現代社会で高野辰之博士の詩に出て来るような故郷をイメージできる人はどれほど居るのでしょう。
 昔むかしの「男子志しを立て郷関を出・・・」とか昭和三十年代の「集団就職」という言葉に重なる風景は小寺知事が演奏された「故郷」の風景ではなかったでしょうか。
 心の拠りどころ。疲れた心身を癒してくれる空間。現代人にとって最も必要な環境はこの「故郷」であるように思えてなりません。

 今回の「おすすめの一冊」は【「結いの心―子孫に遺す町づくりへの挑戦―」郷田實・郷田美紀子著、評言社刊、@1,500円+税】です。
 この本は平成10年に初版が出され、大きな反響がありましたので既にお読みになった方もおられるかと思いますが、平成12年に實氏が他界された後、お嬢さんの美紀子さんが加筆され復刊されました。

 宮崎県綾町は町の面積の八割が森林、九パーセントが農地という環境。
 この町で町長六期。歴史の中で培われた文化をベースに「文明は物質の領域、文化は心の領域」という視点から文化に重心を置いた、癒しの空間としての町づくりに心血を注いだ記録です。
 今、地域社会が色々な意味で変わりつつありますが、地域社会の役割、そして、そのあるべき姿を求め「皆が加勢しあって生きる'結いの心'こそ自治の原点」との哲学のもと、町づくりの在り方を説き、現代社会の風潮への警鐘と憂いを綴ります。

 曰く『国が形の上でいかに栄えているように見えても、経済大国と名乗ろうと、日本人、また日本の文化の原点である農村文化を疎かにしては国そのものも、やがては文化的にさびれて行ってしまう・・・』
 また、著者の「こだわり」について、『有機農産物、手作り加工食品、工芸品など、綾町の製品はすべて本物を目指しているが、本当にこだわっている本物は'人間の本物'である。』と究極のテーマを掲げます。
 この他にも心の琴線を刺激する言葉の数々やリーダーとしての決断・実践の手法に人としての魅力とその大きさを感じられることと思います。
 「故郷に生かされ、故郷に殉じた町長さん」から「人間、如何に生きるべきか」について教えてもらったような気がいたします。 (N)