おすすめの一冊 21

魂の森を行け−3000万本の木を植えた男の物語
一志治夫著 集英社インターナショナル刊

 「秋祭り」という響きに神社の境内を思い出される方も多いと思いますが、ほのぼのとした村祭りも御伽噺の世界になりつつあります。
 ここ半世紀あまりの日本社会での一番の変化は農林漁業従事者の激減です。兼業農家として父祖の地を守っている人達も多くは老齢に達しています。私たち群馬県の農山村が50年後、どうなっているのか予測するのが憂鬱になるほど「村の鎮守様」も「社の森」も時代の流れに押し流され危機の渦中にあるように思われます。
 鎮守の森に子供たちの歓声が響く日は戻って来るのでしょうか。

 今回の「おすすめの一冊」は【「魂の森を行け―3000万本の木を植えた男の物語―」一志治夫著・集英社インターナショナル刊・@千四百七十円‥税込】です。
 主人公の宮脇昭さんは横浜国立大学名誉教授で、群馬県町村会主催の研修会にも講師として登壇して頂いたことがあります。小柄で、がっしりとした体躯、キラリと光る強い眼差し、堰を切ったような語り口調を思い起こされた方もおられるかと思います。その宮脇先生の森づくりへの足跡を綴ったのが本書です。

 強い個性こそ抜き出た実行力のエネルギー源に違いないと思いますが、自らが信じるものへ全力で突き進む姿に、かつての「侍」を感じます。
 「人間固有の豊かな知性も感性も、なによりも大事な遺伝子も、宿主である植物の寄生虫の立場でしか維持できない」という哲学のもとに自然の森再生というテーマを通じ、古来日本人の生活の中に息づいている鎮守の森の価値や自然との共生の大切さを説き、地球上で自然への畏敬を失わなかった筈の日本の文化の危機をも訴えます。

 ふるさとの木によるふるさとの森、自然のままの森が本物の鎮守の森の条件であり次世代へ繋ぐ遺伝子の森でもあると言います。
 「植物の社会ではトップが本物なら子分も本物。トップとそれを支える三役五役が本物でなければ子分も偽物です。ニセアカシアみたいな偽物を植えれば、どんなに恰好よく大きく見えても長持ちしないし、子分もセイタカアワダチソウかブタクサでしかない。」これは曹洞宗大本山総持寺の貫主とのやりとりの中に出てくる表現ですが、今は、あらゆる面で真贋の識別能力が問われている時代なのかも知れません。(N)