広報「群馬自治」連載 おすすめの一冊 第2回目 平成12年1月号

 20世紀も最後の年になりました。充実の歳月を送る人にとっては希望に満ちた新しい世紀への架け橋となる年でありましょうし、低迷する経済情勢や荒んだ空気の漂う社会環境に呑み込まれて生きている人にとっては憂鬱の中に新たな年を迎えられたかも知れません。

 しかし漱石の言葉を借りれば「この世の中をつくっているのは鬼でもなければ蛇でもない、向こう三軒両隣にちらちらするただの人」ということになります。

 当然のことながら、この国を支えている大多数は普通の人に違いない。

 むしろ今の世の中は、普通の人が普通に生きることが難しい時代になっているのかも知れません。しかし、普通の人が平凡に生きるということとはどう言うことなのかも解り難い時代であるとも言えましょう。


「凡人の道 −煙仲間のこころ−

永杉喜輔著  渓声社刊

今回の「おすすめの一冊」は『凡人の道−煙伸間のこころ−』(永杉喜輔著 渓声社刊)を取り挙げました。

永杉さんは群馬大学の教授を務められ群馬大学名誉教授でもあります。明治42年生まれの永杉さんが、折りに触れ綴られた思いを米寿を期に一冊の本に纏め上梓されました。

気骨ある教育者の面影を彷彿とさせる教育論、奥様と死別されてからの生活の日々に映る心模様、老境を迎えた著者の悟りとも云うべき人生観が惜しみ無く綴られているのが感じられ、著者の心の温もりが読者に伝わってくるに違いありません。

「平凡に徹することができれば非凡である」と言われますが、それが何であるかを教えています。それは著者の人生経験の中で身に染み付いた教育者魂に因るものと思われます。

日本人が今日失ってしまったもの、失いつつあるもので大切なものを私たちは心を新たにして取り戻す努力が求められています。そしてその努カが為されない限り希望の未来は開かれないでしょう。

 サブタイトルの「煙伸間のこころ」の煙とは何か。本文に記されているその奥深いこころ模様に、今影を潜めつつある日本人の姿を思い起こさせられるに違いありません。是非ご一読を。(N)