おすすめの一冊N

ビンラディンのイスラム教とユダヤ教、キリスト教

神辺四郎 宝島社新書

 「春の海 終日(ひねもす)のたり のたりかな」(蕪村)長閑(のどか)な日本の情景を見事に詠んだ句と思いますが、昨今の経済状況や失業率などを見ると柔らかな春の日差しや風薫る景色を楽しんでいられる場合ではないかも知れません。
 世界に目を転じれば、イラク、北朝鮮問題など殺伐とした空気に覆われており、日本はこの厳しい外交の荒波をどう乗り切ったらよいのか、無力な一国民と自覚しつつも一寸の虫の心配は膨らむばかりです。
 争いの絶えたことのない人間社会の中で、多大な犠牲を払ったとは言え私たちは戦後六十年近くの平和を享受してきました。
 そして今、私達は真の平和を問われているように思われます。

 今回の「おすすめの一冊」は【「ビンラディンのイスラム教とユダヤ教、キリスト教」神辺四郎著.宝島社新書.@八百五十円+税】です。
 今では古い話になりますが、一九八九年に東西冷戦の象徴だったベルリンの壁の崩壊により世界が平和に包まれる筈でしたが、その後ものあちこちで民族紛争が多発し、今でも繰り広げられている激しいのニュースのない日はありません。冷戦の後に来るものは熱戦であると言われていましたが、ハンチントンの指摘のとおり宗教という異なる文化を背景とする衝突が頻発する事態になりました。
 文明の違い、価値観の違いは何故戦争に結び付くのか。多様に満ち溢れた社会で、その多様性を認めることの出来ない者同士が出会ったとき戸惑いと恐怖が生まれてしまうのかも知れません。唯一の神を信奉する民族同士の確執。宗教戦争と言われる所以です。
 日本の戦の歴史と言えば、覇権奪取が中心であり、島原の乱や一向一揆など宗教が連想されるものであっても宗教の争いではなく生活の危機や弾圧に対する反乱、抵抗といった類いであったように思われます。
 イスラム、ユダヤ、カトリック、プロテスタントそしてその分派の確執など、日本人にはなかなか解りにくい紛争の原因を、この本が説き明かしてくれます。世界が見えてくる一冊。ご一読を。(N)