おすすめの一冊M

独立自尊 −福沢諭吉の挑戦−

北岡伸一著 講談社刊

 「衣食足りて礼節を知る。貧すれば鈍す。」など人が真っ当に生きるにはその前提として経済的充足が挙げられますが、近頃の世相を見ますと、有り余る豊かさの享受に浸りながらも世相は乱れ礼節といったものへの効果は無さそうですし、本来人間が目指すべき理想を求める感性や知性というものに磨きが掛けられるような状況は生まれていないように思われます。

 戦後半世紀の時間をかけて一生懸命歩いてきた道に、予想もしなかった落とし穴があり、その陥穽から脱出する手立てに窮している状況が今日の「混迷」を生み出しているのかも知れません。

 手本なき時代と云われますが、「温故知新」、原点に戻り、今こそ困難を乗り越え、近世日本を拓いて来た先人に学ぶべき時ではないでしょうか。
 今回の「おすすめの一冊」は、【「独立自尊 −福沢諭吉の挑戦−」北岡伸一著.講談社刊.@千九百円】です。

 「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず・・・」と言う言葉は誰でも知っていると思いますが、「学問のすゝめ」や「文明論之概略」などというタイトルを見ると腰が引けてくるかも知れません。

 明治維新、廃藩置県、西南戦争という時代背景の中で書かれた福沢諭吉の名著のエッセンスを分かり易く解説しているのが本書です。

 殊に巻末に記されている「福翁百話」では悟りの境地から発せられた言葉の重さと深さに心を揺さぶられに違いありません。
 そして「分権論」や「瘠我慢の説」などは現代の日本社会にそのまま当て嵌まるくらい時を越えた共通点を感じます。

 「もしかしたら福沢諭吉という人は、幕末、明治維新という時代の中では異端者ではなかったか?」と思える程、合理主義で己に忠実な人間である事を痛感すると同時に明治維新を成し遂げた人々は皆、独立自尊の精神と大義に身を賭す覚悟があったように思えます。

 現代に較べ遥かに厳しい国内事情を抱え少ない情報を頼りに新時代を切り拓こうとした先人の「気概」に触れるとき、百三十年後の今、変革の壁に向かって悩む私たちへのメッセージとして少しも色褪せていないことを確認できることと思います。(N)