広報「群馬自治」連載 おすすめの一冊 第1回目 平成11年10月号

 近年、テレビをはじめとする電子メディアの普及により、本を読む人が少なくなったと言われる。しかしいつの時代でも冷静な思考の時間を持つということは私たち人間にとって必要であり、その最も手短な方法が良書に触れ、そして考えることではないかと思う。

 その本に勇気づけられたり、心のゆがみを治してもらったり、従って、いつでも手の届くところに置いて、繰り返し繰り返し読める本。今月号からの新企画として、そんな「心の栄養剤」になる本を紹介します。また、皆様からの推薦もお待ちしています。


「日本を捨てて日本を知った」

林 秀彦著  草思社刊

【日本を捨てて日本を知った 林秀彦著 草思社刊】が今回お薦めの一冊である。「若者たち、七人の刑事、鳩子の海」などのシナリオ作家として活躍した著者が、戦後日本の人心の荒廃していく状況に見切りをつけ渡豪してから10年の歳月を経た今、ふるさと日本へ身を削る思いで綴ったメッセージである。

アングロサクソンの価値観の根底にあるものを探り、日本人が本来備えている資質の分析によって、日本人の日本人たる所以を求める。

そして、これから弥が上にも世界の人々との交わりの中で生きる時代に、世界を知り己を知ることの大切さを切々と説いている。

《もし人に、そもそも虚しい人生にギリギリの寄辺があるとすれば、それはやはり「役日」に殉じることしかないのかもしれない。『葉隠』の一言う「死ぬことと見つけたり」とする武士の役目と寄辺とは、そのことではあるまいか。殉じることへの心構えの有無のことだ。

・・・人間同士の価値が三顧の礼にあることを知っている人が、まだ何人残っているのだうう?言いたい放題を言い、したい放題をし、それに対して殉じる心構えの微塵もない日本人では自分はない、と言いきれる日本人が、何人いるりだろう。=本文194頁より》

二度、三度と繰り返し読むに値する一冊であると確信する。できれば若い人に読んでいだだきたい。(N)