心 豊 か に

水上町長 腰 越  孝 夫    


〜物から心の豊かさへ〜
 21世紀は「心と環境の時代」といわれている。何れも科学技術の進歩に伴って構築された工業化社会と資本主義経済、それに戦争の狭間にあってお座なりにされてきた歴史がある。人間が人間らしく、而もより善く生きていくために必要な、現在社会に課せられている重要なテーマであります。

 戦後復興のため、豊かさの追求に走ってきた日本の経済至上主義は、奇跡的な復興を成し遂げ、羨む物の豊かさと便利さを手に入れました。しかし、そのために失ったものも大きく、あまりにも物の豊かさを求めすぎたばかりに、現在社会のわずらわしい人間関係からも伺えるように、心の豊かさと余裕(時間)を失ったことです。

 「人間は一人では生きていけない」という原則があります。時間に追われ、物の豊かさに浸ってきた日本人。ひとは各々のもっている役割と使命を果たしながら、人間がより善く生きていくために必要な社会形成の一翼を担って共生していることの意義を忘れてしまいました。利己主義に走り、自分だけよければと、個人の権利のみ主張するようになりました。加えて、公徳心の欠如や物事への無責任さにも著しいものがあります。これらのことは、病んでいる現在の日本社会の症状であり、心の豊かさを必要とする所為でもあります。
 
 さて、不況がなかなか回復しない今、心豊かな時代を創造するために私たちは、これ以上物の豊かさを求めても得られることに限りがあることを知るべきであります。そして、国や日銀による累次の経済政策も効を奏さず、いままでの経済主義が限界にきているであろうことも認識しておかなければなりません。

〜変化とスピードの時代〜
 21世紀も3年目に入りましたが、バブルがはじけ、デフレ状態が続き、先行きも依然として不透明である。にもかかわらず、あらゆる仕組みや事象が変化し、そのスピードも著しく速くなっている。一つの変化によって組織や個々の在り方や方針が行き詰まり、その周囲にもさまざまな問題が発生し、それらに対する判断や評価も方向転換を余儀なくされる。価値観も変わり多様化する。このまま世の中が進むと現在人は、戸惑いとともにストレスから離れられない、ますます難しい時代環境に晒されていくこととなる。

 最近、「スローライフ」についての新聞記事を読みました。人生80年とすると、時間にして約70万時間。そのうち働いているのは約7万時間で大半は睡眠や学習、食事、余暇で過ごす。日本人はこれまで7万時間の労働を大切に生活してきたが、これからは残りの63万時間をゆっくり生きよう―。これは静岡県掛川市の「スローライフ宣言」であるという。勤勉な日本人は長時間働くことは世界屈指だ。仏国や伊国では2、3時間かけて昼食をとるケースも珍しくなく、残業も少ないから収入は当然少ないが、日本人よりはるかに生活を楽しんでいる。大量生産、大量消費の社会から「急がない社会へ」という価値観の転換は日本経済の方向性を探る上で重要である。という内容でした。

 書店で気になる著書の表題が目に入りました。「人間を幸福にしない  日本のシステム」。テレビでは「日本人は日本の本当の良いところを忘れている」の言葉が印象的であり、何れも外国人によるものであります。また、新聞で先頃東大を退官された安藤教授の講演で「日本は難しい時代で、一流大学を出てもリストラされる。自分の力で生きなければならないが、可能性もある。若い人が自分に何ができるか考え、日本をつくってほしい。私も人々の心に残る建築をつくっていきたい」と。
 
 首長として4期目。人の心を癒してくれる山・川・森・恵まれた自然環境の地で、住民の心に届く政治、住民の心が届く政治に拘わってきました。厳しい時代ですが、これからも前向きに「心の政治」を貫いていきたいと思います。

(全国町村会『町村週報』平成15年5月12号掲載)